学生時代から文章を書くことに苦手意識を持っていた。 小学校の読書感想文から大学院の修士論文まで、すべての文章執筆で苦労をした記憶がある。
社会人になってからもその苦手意識は続いていたのだが、コロナ禍で情報伝達がテキスト中心になったこと、マネージャーになって文章を書く機会が増えたことから、文章力を鍛えることにした。
そうは決心したものの、何から手をつけたらいいかわからない。「文章力をつけるには要約がよい」という意見を見聞きするので要約をやってみようと思う。しかし、要約をするための文章が見つからない。 目についた新聞記事や本を要約してはみるが、1つの文量がまちまちだったり、自分の要約が的を得ているのか判断がつかなかったりと、習慣には繋がらなかった。
そんなとき、たまたま『TOPPOINT』の紹介を受けた。 これを教材にしてみたところ、文章力のトレーニングに寄与した実感があったため、私なりの使い方を記す。
『TOPPOINT』とは
株式会社パーソナルブレーン社が発行している、ビジネス書を要約した月刊誌。 10冊分の書籍を各4ページに要約したコンテンツを毎月家に届けてくれる。
購読料は1年契約の場合、毎月1,210円(2024/09現在)
新刊ビジネス書の要約『TOPPOINT(トップポイント)』www.toppoint.jp
トレーニング方法
1回のトレーニングは、
- ①本誌から興味のある1冊を選ぶ
- ②本誌2-4ページ(約5,000字)を箇条書きで800字に要約
- ③自分の要約と本誌1ページ目(in brief)を比較
の手順で行う。
この方法のメリットは
- ビジネス現場で多用される箇条書きの形式でまとめる力がつくこと(in briefも箇条書き形式)
- 自分の要約と本誌を比較することで、編集者の要約からの学びを得ることができること
- 1回1時間程度の短時間で終わること
である。
この方法が成り立つのは、『TOPPOINT』が「原著 → 全3ページの要約(P. 2-4) → 全1ページの要約(P. 1) → リード文」というような、要約の多重構成となっているためである。 さらに学びを深めるのであれば140文字程度に要約して、目次ページのリード文と比較するというような使い方もできる。
要約の具体的方法
本誌に赤ペンで書き込みをし、要約文はScrapboxに書き溜めている。
2020年8月号掲載の『外資系コンサルが教えるプロジェクトマネジメント』を例に成果物を紹介する。
ドラフト
本誌へは赤ペンで要点を洗い出してアンダーラインを引いたり、①②のように印をつけている。
誌面で要点を洗い出す際には、構造や重要度など、筆者や編集者からのメッセージを読み取っていく。
例えば、何かを列挙する際の「まず」「つぎに」「そして」という接続表現、重要な点を記す際の「xxである。つまり...」「では、xxxはどうなるのか?それは...」というような言い換えや修辞的な質問文などだ。 これらの表現に敏感になると、要約がかなり楽になる。
アウトプット
Scrapboxにはアンダーラインを引いた部分を中心に転記する。
in briefで参考になることがあればアイコン付きでコメントをしている。 また、要約後の後作業としてリンクをつけておくことで、要約文章自体も情報資産化する。
文の濃度
要約には、正解があるものではないが、抜き出すポイントの違い、要約文の違い、など、自分と編集者の観点の違いは学びになる。
例えば、2020年10月号掲載の『よきリーダーは哲学に学ぶ』の中の一文。
私の要約文では
ブッダは苦しみは恐れや欲深さから生まれ、苦しみをなくすにはその根元を突き止めて、断ち切らなければならないと解いた。 ブッダの教えは組織戦略の思い込みを知るヒントがある。つまり、自分たちが他から切り離された存在だと考えると「自分対世界」の構図に基づき強迫観念が生じるが、他と依存し合う関係にあると捉えれば、その構図は崩れる。 先に見えない時代において、共感は極めて重要な戦略スキルとなる。
と本文を引用したが in brief では
ブッダの洞察をビジネス戦略に応用すると、市場の独占ではなく、協力を通した価値創造に焦点を置いたアプローチになる。その遂行にあたって重要になるのは、共感のスキルだ。
とシャープで濃度の高い文になっている。
「苦しみは恐れや...」を「洞察」と置き換え、「ブッダの教えは組織戦略の...」を「価値創造に焦点を置いたアプローチ」と置き換えるなど、情報密度の高さに学ぶことが多い。
まとめ
TOPPOINTを使った要約練習の方法を紹介した。
毎月全ての記事に対する要約をしているわけではなく、毎月気になる2, 3冊を選んでいた。 それでも数ヶ月経つ頃には、簡潔な文を書けるようになったり、構成を構造化できたりと、文章力の向上が実感できた。
つまみ食いをしてもスキル向上ができたのは「ビジネス書の質の高い要約を10冊分届けてくれる」という特性があったからで、新聞の社説や書籍では継続は難しかったと思う。 また、毎月ポストに投函されるというのも個人的には大事で、これがオンラインコンテンツであったなら、1日で忘れ去っていたはずだ。
今ではこのトレーニングを継続してはいないものの、当時作ったメモはいまでも参照することがあり、成果物自体も資産になっている。 特にビジネスの現場で文章力に悩む方に、この方法をおすすめしたい。